アメーバーブログから、移転した小説用ブログです。
ここにおいてあるのはROとブライトキングダムの小説になります。
これから増えるかどうかは不明ですが、よろしくお願いします。
少々詰まってきたりもしてるので、オリジナルのも上げるかもしれません。
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- 2008-12-31
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ブラキン小説第134話「エルドリン王家舞踏会1」
三人ともドレスアップしたことで、5人の準備は整った。
5人の中でも、ミュリシアとリリアンの二人だけは別格で翠と蒼のドレスは、エリア達に選ばれたドレスよりも人目を引いていた。
「やっぱりミュリシアとリリアンの二人は目立ちますね」
「流石ミュリシアさんとリリアンさんだと思うよ」
「流石に生地とか違いすぎると思うんだけど」
三人がそれぞれ、思ったことを口にするとフローリス王女が内幕を明かしてくれた。
「三人のドレスとミュリシアとリリアンのドレスは別物よ?元々メイド達が持ってきたのは、他家に嫁いでいった姉様達の残り物。ある程度凝ってはいるけれど、目利きが出来てないわ。それに、ミュリシアのはわたくしの母親の形見の品だし、リリアンのは急遽仕立てたとはいえエルフの手による物なの。その時点で違うのは分かって貰えると思うのだけれど」
エルフの知識をも持っているフローリス王女にとって、衣服を選ぶことはそんなに苦労しない。実際、姉たちの衣服を選ぶ場に付き合わされては、いろいろと着回されたこともあったくらいだ。
その分、生地等に関しての知識も豊富でウルガ産の生糸が一番上質と言うことを知っていて、エルフの手が入っているためにしなやかながら張りのある布地が出来ることを知っていた。
そう言う点、知識持ちで実際に選んでいるだけにきっちりしているようだった。
「エルフたちの服と人間の服じゃかなりの違いがあります。その辺、エルフが生み出す生地のしなやかさと丈夫さはなかなかまねは出来ないと思います」
ティファニアは、生きている年数が長いため、そう言うことに関しては知っているようだ。器用さ等では、人間よりエルフの方が優れているためだろう。
実質、ミュリシアの翠のドレスは別格そのもの。フローリス王女の母親に代々伝わる家宝と言える代物だけに、生地や作りが違いすぎた。風の力が込められた糸から織られた古代エルフが作ったとされるドレスは、特殊な作りもさることながらその絹の丈夫さは他にはまねできない。
リリアンの蒼のドレスも、エルフの手が入った一品物だけに出来映えは上々。憧れてもおかしくないほどだ。
そうこうしているうちに、どうやらお城で舞踏会が始まったようだ。華やかな音楽と着飾った男性と女性達が思い思いにステップを刻んでいく。
その中に、ランベルク王子は言うまでもなく入っていない。理由は簡単だ。元々王子は、こういうダンス等の場はあまり好きではない上に、ダンスをするなら相手を決めているからだ。
ミュリシアたちは、フローリス王女とともにお城の屋上へと足を運んでいた。そこに、ランベルク王子とティアが待っていた。
「ミュリシアたちも来たか」
ようやくといわんばかりに、ランベルク王子が口を開くとティアが苦笑を浮かべていた。
「もう、ランベルク王子様。ミュリシアたちは、支度に時間がかかるのですよ?でも、やはり来てくれるのがミュリシアの良いところだと思います」
「あまりいやとは言えない性格だからかな。どちらにしろ、あまりこういう場は好きじゃないんだけどね」
ミュリシアは正直な思いを口にしていた。それは、親しい友人だけが居る場だからこそ出来ることで、いつもならこんなことは口にしない。
それだけ、この三人が居ても問題がない位に仲が良いと言う証明でもあった。
「ミュリシアが本音を言うなんて珍しいわね」
「うん、確かに珍しいね〜」
「あまり本音を言いませんから、率直に言えるだけ良いんだと思います」
ミュリシアと付き合いが長いリリアンやティファニアでも、ここまで本音を言うミュリシアを見るのはそう回数がないため、珍しいといえた。
「実際、このドレスには申し訳ないけど足が浮ついてる感じだよ。慣れてないだけかもしれないけどね」
「実質で言うと私もそこは一緒だよ〜。あまり社交界的なのは好きじゃないし〜」
ミュリシアとリリアンはそう言う点近い感性を持っているだけに、こういう華のある世界はあまり好きじゃないようだ。
変に目立つと言うのもあるかもしれないが、冒険者という肩書きが頭の片隅にあるのは仕方がないことだった。あまり王族と交流を持つ冒険者はほぼ皆無に等しい。
だが、ミュリシア達はそう言う点恵まれていると言っても過言ではなかった。
恵まれていると言えば恵まれているのかもしれないが、ランベルク王子とミュリシアには共通項がある。剣と精霊の二つだ。
そして、二人とも変わっていると同時に力の持ち主という部分も共通していた。
「どちらにしろ、あたしは余り前に出ることは出来ないよ。人を越えた力は、恐怖と畏怖の対象にしかならないし、混乱させるだけ」
「だろうな。ミュリシアの力、そしてリリアンの神をも降ろせる能力は桁が外れている」
ランベルク王子の言葉に、ミュリシアは無言で頷いた。
人が使うには強すぎる力を預かっている時点で、人の理解の範囲を超えてしまう。勇者でも何でもないのに、その力を預けられたと言うことはその使命がいかに重い物になるかは想像すらも出来なかった。
「ミュリシア、少し堅く考えすぎじゃないかな〜?」
「かもしれないね。元々そんなに柔軟な方じゃないから、尚更なのかも」
「リリアン、ミュリシア。あなた方は、古代エルフの英知をも越えた能力の持ち主なのです。普通のエルフですら、その能力に理解が出来るかどうか怪しいんです。だから、人間では既に理解の範疇を越えています。でも、そのことにとらわれてはダメです」
ティファニアの言葉は、長年生きているだけに何となく重みが感じられた。そして、言われたことはその通りだった。
精霊を束ねる能力、そして神降ろしをしても精神が壊れない器をもつ少女達など聞いたことなどないのが本当のところであって、それだけ異質であることを物語っていた。
だが、その異質ぶりもランベルク王子と一緒ならば中和されてしまうのだから不思議と言えた。
それだけ、ランベルク王子の剣聖の能力も凄いという裏返しでもある。実質、精霊カシャに認められてこそ剣聖を継ぐことが出来るため、似た力とも言えた。
決定的に違うのは精霊力で、ミュリシアの精霊力は人を越えた代物。ランベルク王子の剣とはまた質が全然違ってしまう。
ランベルク王子の剣は剛剣だとすれば、ミュリシアの剣はまさに受けの剣。力ならランベルク王子の方が上だし、速度ならばミュリシアの方が上だろう。
前までなら速度は互角だったのだが、今となってはミュリシアに光の精霊の祝福が混ざっているせいで若干上回る形になっていた。
「二人とも、ここで力の話をしても結論は出ないわ。二人とも器が凄すぎるから、そうなってしまう。お兄様もミュリシアも、人の器を越えた能力を持ち合わせていることがこうやって引き合わせるきっかけになったのだから、何かあるか分からないわね」
フローリス王女は笑顔を浮かべつつもそう言った。
精霊の関係がなければ、こうやってここの場にいることはなかっただろうというのは想像に難くない。そして、その繋がりがあったからこそ今ここの場にいるわけなのだが・・・。
「どっちにしても、二人は会うべくして会ったということですね。あたしとは違って、出会う運命だったと言うことだと思います」
「うーん、ティア。それ違うと思うよ。ティアもランベルク王子に出会う運命だったんでしょ?ここの場に居るんだからあたしのことをばっかり言わなくても良いのに」
ミュリシアとしては苦笑を浮かべつつもそう言った。
ランベルク王子の思い人はティアであり、ミュリシアではないからだ。
ティア自身が、自分に自信がないからそう言ってしまうのは何となく分かってしまう。そして、その境遇も影響しているのだと言うことも。
それを考慮に入れてすら、ランベルク王子の心は動かない。そこがランベルク王子が応じたる所以であり、剣で鍛えた精神のたまものともいえるのかもしれなかった。
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- 2008-08-26
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ブラキン小説第133話「エルドリン収穫祭3」
しばらくの間、ヴィルヘイムの好意でお茶を飲んでゆっくりしたミュリシア達は、そのままとんび旅館へと戻った。
すると、とんび旅館に一人の男性が待っていた。王立軍の制服を着込み、突っ立っているだけでちょっとピリピリした感じを受けるのは、軍という後ろ盾があるからに他ならない。
そんなことをお構いなしなのがミュリシアなのだが、流石にいぶかしげにならざるを得なくて・・・。
「あの、そんなところで突っ立っていても目立つだけですよ?誰かに用事ですか?」
ミュリシアにそう言われた男性は、ミュリシアを見て納得いった表情を浮かべた。
「貴女がミュリシアさんですね?」
「はい、あたしがそうですけど?あなたは?」
「申し遅れました。私は王立軍の大尉、ローランスと言います。新国王就任式典のパーティがあるのでミュリシア様達をご招待いたします」
ローランスはそう切り出すと、ミュリシア達は困った顔をした。
どう繕ってもパーティに出るような服を持っていないからだ。
「私たちは冒険者でパーティに出られそうな服がないのですがそれでもいいのですか?」
ミュリシアの変わりにティファニアが告げるとローランス大尉は首を振った。
「そのあたりは気にしないでください」
どうやら、前の状態と一緒で強制的にと言うことらしいと察したミュリシアは見えないようにため息をつきつつも頷くしかなかった。
「分かりました。案内して頂けますか?」
「ありがとうございます。それでは、ご案内します」
ローランス大尉に案内されつつも、王宮へと急ぐ。既に夕方になっていて、祭りもかなりの盛り上がりを見せていた。
祭りを避けるように裏路地から王宮へ行くと城門前でフローリス王女とティアが待っていた。
「ミュリシアたちもちょっと災難ね」
「王女様、それをそこで言っては・・・」
「良いの。気にしたところでもう遅いわ。ミュリシア、リリアン、ティファニア、エリア、綾風。わたくしと一緒に来て」
フローリス王女が先導するとミュリシア達はそれについて行くしかない。実質、ドレスはフローリス王女から借りる方向が一番手っ取り早いからだ。
城のフローリス王女の部屋の側にあるドレッサーに入ると、待ちかまえていたようにメイド達が居た。
『いらっしゃいませ』
と言われて、メイド達はミュリシア達の服の丈などを調べようとした。
が、ミュリシアとリリアンは先にフローリス王女が腕をつかんでいて、メイド達も手を出すことが出来ない。
「この二人のドレスはもうあるわ。後の三人のを見繕ってあげて」
『は、はい。分かりました』
「それじゃあ、後をお願い」
フローリス王女はそう言うと、自室へとミュリシアとリリアンを連れて行った。
既にフローリス王女の部屋には一ヶ月ほど前に着たドレスが置かれていた。翠のドレスと蒼のドレスの二着。あのときと比べても、ミュリシアたちは成長したがあまり体格は変わっていないのですんなり着ることが出来た。
リリアンは若干腕の筋肉に変化があったが、ミュリシアには一切ない。剣の重さを大気の力で軽減しているために筋肉が付くこともない。それが良いのか悪いのかは別として、精霊の補正というのは人間の力を遙かに超えると言う証明でもあった。
「やっぱり、ミュリシアにはお母様の形見のドレスが良く似合ってる」
「本当に、黒髪とエメラルドグリーンのドレスが目を引くよ〜」
翠のドレスを着たミュリシアを見て、フローリスとリリアンがそう声を漏らす。ミュリシアとしてみれば自然に着ているだけなのだが、それでも翠のドレスはミュリシアを主と認めたかのようにぴったりで変なところはどこにもない。
「そう言えば、フローリス王女。この前と同じ状況ってことで良いのかな〜?」
リリアンの言葉に、フローリス王女としては頷きつつも少し困った表情を浮かべていた。
「実際、新国王様直々の呼び出しなの。何を考えているかはわたくしにも分からない。でも、ミュリシアたちなら大丈夫だと思う。もしもの時は、お兄様とわたくしが助けるわ」
「大丈夫、そうなったら精霊の力を借りるだけ。風の力だけで済むと思うし、闇や光は刺激が強すぎると思うよ?」
もしも、その状況になった場合のことを考えていなかった訳じゃない。どうなるかは分からないが、最悪の事態も頭に入れておく必要があるのは重々承知だった。実質シルヴァンソードは持ってきていた。儀礼剣としても通用するその鞘は、人目を引くには十分すぎるほどだ。
それにしても、ミュリシアは着ているドレスをつまんで見てからつぶやいた。
「フローリス、本当にこのドレス良いの?持っていた方が良いと思うけど?」
「もう、ミュリシア。エルフと人間では体系が違うのは前に話をしたわよ?」
フローリスとしては、体系が違うから着られない事実があるが故に、そう言ったのだった。フローリス自体ミュリシアのことを買っていたし、初見から風の力を感じていた。
実際、フローリス王女の母親は遠くさかのぼればエルフの血を引く人間だったため、フローリス自体は先祖返りした格好となっていた。
実質、エルドリンが作った王国なのだからエルフが生まれてもそんなに奇妙なことでないのだが、実際王家にエルフの血は相当薄くなっていて、人間の方が濃いのは言うまでもない。
それだからこそ、フローリスを前国王は恐れたのかもしれない。エルフの血で先祖返りをし、なおかつエルフとしての知識と王家に伝わる古代エルフ文字すら解読できる頭脳を。
ミュリシアと出会って、変わったと言えばかなり変わったと言えるのがフローリス王女だったから、その感謝の気持ちもあるのかもしれない。
強いて言うなら、ミュリシアがフローリス王女の母親に若干似ていると言うのも含まれていた。それも前に話してあったから、ミュリシア的には理解していた。
「フローリスは、お母さんのこと好きなの?」
「嫌いって言えるわけがない。わたくしのことで責められて、亡くなってしまったから申し訳ない気持ちが一杯でそれ以上は言えないわ」
フローリスとしてはそれ以上でもそれ以下でもないようだ。亡くなった母親の思いは、フローリスに生きていて欲しいというだけ。
だから、フローリスとしてはそのことを守っている。でも、それ以上に優先事項もあると言うだけのことだ。
「でも、翠のドレスはミュリシアにぴったりなのはやっぱり風の力のせいかしら?」
「えっ、フローリス。それ、どういうこと?」
「ミュリシアには話してなかったわね。翠のドレスは、風の力を受けて古代エルフが織ったものよ。だから、風の精霊に認められているミュリシアにはぴったりなんだわ」
翠のドレスは、生地に光をたたえつつも気高い大気を身にまとうように軽い繊維で出来ていた。軽いからと言って、破れやすいかと言えばそうでもなく。特殊な繊維を使っていることがよく分かる。
「着てみて思うけど、このドレス動きやすいように作られてるよね。まるで、動くのを前提に作ってるみたい」
「かもしれないわ。お母様も先祖代々受け継がれてきたこのドレスを大切にしていたから、何かの儀式とかに使うのかもしれないわね」
フローリスがそう答えると、ドアがノックされた。それに応じて、メイドの一人がドアを開けるとティアが入ってきた。
「フローリス様、残りお三方の支度が終わりました」
「ありがとうティア。こっちも支度は終わっているわ。それでは行きましょうか」
「はい」
ティアはフローリスの言葉に頷くと、ドレスアップしたティファニア、エリア、綾風の三人を連れてきた。
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- 2008-08-13
- ブラキン小説
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ブラキン小説第132話「今後の行方」
ミュリシアたち4人とヴィルヘイムを合わせた5人は、そのままいろいろとお茶を飲みながら話を続けていく。
「考えてみれば、ミュリシアに助けられてここにいるんだよね〜」
「私もそうですね。古代エルフだからといって、表情を変えなかったのはミュリシアとリリアンだけですよ」
「エリアもミュリシアさんに助けて貰ったからここに居るんですよ」
「あたしがそうしたいと思っただけだから、大層なことはしてないよ。そういえば、ヴィルヘイムさん。また少し手ほどきして貰っても良いですか?ここのところの騒ぎで、ちょっと・・・」
ミュリシアとしては、ここのところの騒ぎできっちり料理のことを失念していたから再度やり直すには良いだろうと思ってそう言っていた。
実際、ある程度までは動かしていたもののそれでもきっちりではなかったため、腕が落ちている気がしていたのだった。
「その辺は構わないよ。どちらにしろ、もうしばらくは滞在するからね」
「それじゃあ、お願いします。実際あたしがヴィルヘイムさんの弟子っていうのもおこがましい気がします。料理に関しては凄いと思いますし・・・」
「私のことはあまり考えないで良いと思うし、ミュリシアはミュリシアの料理を作ればいい。人の料理と自分の料理、間違えてはいけないよ」
ヴィルヘイムはそう言って釘を刺すとミュリシアはそれに頷いた。
そのまま、5人でお茶を飲みつつくつろいでその日はとんび旅館へと戻った。
これ以上ミュリシアやイ・オが動くことはもうない。新国王のお披露目が大々的に行われている中、この警備網を抜けることは容易ではないからだ。
エルドリン収穫祭は、それだけのイベントであり。国の威信と無事に収穫出来たことを祝うためのお祭りのため、厳重な警戒網を作ってあった。
「しばらくは、ゆっくり出来そうかな」
「だろうと思うよ。収穫祭が終わって、しばらくは補佐役として残らないといけないだろう。何せ大臣が居ないという重大事項があるわけだし」
ヴィルヘイムとしては、その事項が終わるまでエルドリンに残るつもりのようだ。
ミュリシアとしても、しばらくはエルドリン学園での生活を続ける予定でいたし、リリアンやエリア、ティファニアも同じこと。綾風も似たところなので、そこは代わりはなかった。
実質、とんび旅館の滞在費はエルドリン学園の方でカバーする形を取って貰えることになった。なにしろ、ランベルク王子の補佐や学園内に邪教の構成員が居たこともあり、その関係上で学園が滞在費を払うと言うことに落ち着いたようだ。
王家でもミュリシアに借りがあるため、滞在費を持つことで決まったようだった。実際ある程度、学園に行きつつ依頼をこなそうかと考えていたミュリシアにしてみると悪い気がしなくもなかったが、ランベルク王子とフローリス王女に二人がかりで説得されては折れるしかなかった。
「それにしても、とんび旅館の滞在費もって貰うことになるとは思ってなかったよ」
「流石に、王家の危機を救ったりしたんだから相応の褒美を出したかったんだろう。ランベルク王子とクォバス新国王も対応に苦慮したそうだ。実はそのことに関して相談を受けたりしたこともあったよ。ミュリシアにどんな褒美を出せばいいかと言われて、こっちも困った」
ヴィルヘイムにそう言われ、ミュリシアとしても申し訳ない気持ちになった。そんなことになってるとは思ってもなかったから。
「ミュリシアがやったことを考えれば、当然のご褒美って気がするな〜」
「そうですね。ランベルク王子は元々気さくな王子様ですけど、ミュリシアさんと話してるときはとても楽しそうに話してます。それに、元々フローリス王女はあまり笑わない王女様で有名だったんですよ」
「確かに、前エルドリンに居たときにフローリス王女の姿を見ることはありませんでした。今はかなり自由になっているようですが、前はそうではなかったですよ」
過去を知っているエリアとティファニアにしてみれば、フローリス王女の変わりぶりはかなり印象に残っているようだった。それもそのはず、実際あまり顔を出さない王女と言うことで有名だったし、人間の血筋を引きつつもエルフの体をもつことで、忌み嫌われた格好となっていたのは言うまでもない。
前国王は、そんなフローリス王女を実の娘として扱わず、王族でありながら継承権を持たない異例の存在だったのだ。
そんなフローリス王女を変えたのはミュリシアの影響も多分にあったのは言うまでもない。唯一の王家以外の友人で、エルフでも差別しない心を持っている少女。
古代エルフですら受け入れる度量の持ち主はあまりいない。フローリス王女もエルフと言うことで忌み嫌われてきたのだから、その心の広さはフローリス王女の心を開かせるには十分だった。
そして、大陸の外から来たことと冒険者と言うこともあって話の種の豊富さも知識を持つ者として大いに刺激された感じだったのかもしれない。
ティアとランベルク王子以外に話す人間が出来たことが変化の最大の要因だった。
明らかに、居ると居ないとでは全然違うということのようで・・・。
「影響が出ちゃうってところなのかな?」
ミュリシアとしてはそこまで深刻に考えてはない。そこがまた凄いところなのかもしれないが・・・。
「そんなに大それたことはしたつもりないけど」
「うーん、ミュリシアの影響って親しいほど出るよね〜」
「ですね。フローリス王女やランベルク王子には確実に影響してますよ。クォバス皇太子にも影響したくらいですし、なにか一本芯が入ってると言うのもあるのかもしれません」
「ミュリシアさんは、強い心を持っているからかも・・・」
エリアの言葉に、リリアンもティファニアも頷いた。当人のミュリシアにしてみれば、そんなことすら気にしないのだから、首をかしげるしかない。
そして、邪教カラシアンもランベルク王子やミュリシアたちの働きで現状の動きを制限された格好となっていた。
「最重要抹殺対象が二人増えたようだ・・・」
「カラシアン大司教、これからはどうしましょう?」
「これ以上のエルドリンへの手出しはするな。むやみに動いたところで、こちらに利はない」
「了解しました。四天王にもそう通達しておきます」
「頼むぞ。神々の復活まで後わずか。それまで、つかの間の平和を見捨てられし人間どもに与えてやるのも悪くはないだろう」
カラシアンの腹心がその場から消えるとカラシアンは暗雲立ちこめるアイシャ大陸を見上げてつぶやいていた。
「今度こそ、今度こそ神々の復活の時。そして、人類の断罪の時だ」
その瞳に映るのは漆黒の闇。
ただ、そこには闇と虚無だけが共存していた。
しばらくの間邪教はなりを潜め、しばらく表には出てこなくなる。
その間が、かりそめの平和な時期であり、嵐の前触れでもあった。
ミュリシアたちは、しばらくエルドリン学園での生活を続けることになる。
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- 2008-08-07
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私信ながら、ここで連絡をば・・・。
仕事が見つかった関係上で、更新が非常に遅くなることが増えると思います。
現に二週間ほど放置していたりしましたので、今後もそう言うことが増えるかもしれません。
一気に更新できないので、チマチマ継ぎ足す形を取ろうと思いますので、そこはご了承ください。
ブラキン小説第131話「エルドリン収穫祭2」
ティアと合流したことで、ランベルク王子とフローリス王女、そしてティアの三人はミュリシアたちと分かれて動くことになった。
流石に、ある程度ティアの気持ちを知っているだけにミュリシアとしては一緒というのを遠慮しておきたかったと言うのが本音だった。
三人と分かれた後、エセルとイ・オも・・・。
「流石に、ここの場は」
「先輩方、私たちもここで」
「うん、そうだね。二人とも行ってらっしゃい」
「また後でね〜」
そう言って、分かれた後ミュリシアとリリアンはどうするかと考え始めた。
「さて、どうしようね?」
「一回宿に戻ってみる〜?」
「うーん、それでも良いけど・・・」
そこに、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おや、ミュリシアにリリアン。どうかしたのかい?」
「ヴィルヘイムさん、これからどうしようかと思って・・・」
そう言ったミュリシアに、ヴィルヘイムは納得した表情を浮かべた。
「なるほど、王子やイ・オちゃんたちとは別行動みたいだね。王子達に気を遣ったところで、イ・オちゃん達から気を遣われたってところかな?」
ヴィルヘイムはさらっとそう言った。それに、ちょっと驚いたミュリシアにヴィルヘイムがくすっと笑った。
「驚かせるつもりじゃないが、王子達を見かけてミュリシアが居ないからあれと思ったのさ。で、イ・オちゃん達が居ないのは気を遣ったからか、エセルちゃんに話すことがあるからだろう?」
ヴィルヘイムはイ・オの力を知っているだけにそう言った。
「ヴィルヘイムさんは、イ・オちゃんの力を知っているんですね?」
「ああ、アドリン様から聞いている。古代エルフの巫女の末裔ってこともね。っと、立ち話もなんだし私の知っているお茶の良いお店があるからそこに行こう」
ヴィルヘイムにそう誘われ、ミュリシアとリリアンは頷くとヴィルヘイムの後をついて行った。
ヴィルヘイムの行きつけのお店は、ニナの道具屋にほど近い大通りに面した場所だった。
そこには、どうやらヴィルヘイムが呼んでいたようでティファニアとエリアが先に席に座っていた。
「あれ、ティファニアにエリアも一緒なの?」
驚いたように言うミュリシアに、ティファニアが口を開いた。
「ここのところごたごたしてましたから、ヴィルヘイムさんに良いお茶があるからと誘われたんですよ」
「私も学園から出たところで誘われました」
ミュリシアはヴィルヘイムの手際の良さに驚きつつも、流石に師匠の一人だけはあると考え直した。
行動の早さは、人一倍でありその推察力はまた一流なのでだから・・・。
ヴィルヘイムに勧められ、席に座ると5人用テーブルが埋まった。ヴィルヘイムは好みを知っているだけに、さっさと注文をしてしまっていた。
「えっ、ヴィルヘイムさん良いんですか?」
「ああ、ここは私が持つよ。ミュリシアに彼女を救って貰ったお礼というわけではないけどね」
ヴィルヘイムとしては、ここのところのミュリシアの行動で助けられたことを鑑みての言葉だった。
ミュリシアとしてみれば、そんなことを気にしているわけではないのだが流石に師匠ともなるとまた違う思いがあるのだろう。
「そう言えば、マーラさんは落ち着きました?」
「ああ、何とかね。まだ少し悩んでる部分はあるみたいだが、多分心配しなくても大丈夫だ。結局自分で決着をつけるしかないからね」
ヴィルヘイムとしては、そうとしか言えないようだとミュリシアは感じ取った。
マーラ自体、今までの罪の意識が出てきている。そこを乗り越えるかどうかは、マーラ自身がやることだとヴィルヘイムは分かっている。だから、見守っているのだろうと思えた。
「どちらにしろ、大丈夫かな〜?」
間延びしたリリアンの声が、緊張感を消していく。どちらにしても悩んだところで結論は出ない。そこだけは確かだった。
エルドリンに来て以来、あまりゆっくりすることが出来ずにいたミュリシア達に取っては、こうやってゆっくりお茶を飲む時間すら久しぶりだった。
「なんか、こうやってお茶をゆっくり飲むのも久しぶりかな?ティアさんの関係上で、大分おいしいのお茶を飲んだりしていたけど」
「そうだね〜。でも、ヴィルヘイムさんが居るとしてもこの四人で話をするのも悪くはないんじゃない?」
「ここのところ、ミュリシアが忙しい状態でしたからゆっくり話すこともありませんでした」
「良い機会だと思いますよ。ミュリシアさんの考えを聞きたいと思ってましたし」
ヴィルヘイムとしては、そう言う時間も必要だと分かっているようで誘ったと言うことのようだった。
「たまには、いろいろと話すことも必要だよ。仲間に話すことで、結束が深まるなんてことは良くあることだからね」
「たまには良いのかな?あたしだけで決めてる感じもあったから、それじゃまずいとは思うんだけど状況が話している暇をくれなかったから・・・」
この前までの状況だと説明している暇もあまり無い状態で巻き込まれたりとなかなか一気に自体が動くことが多かったため、なかなか話も出来ない状態だった。
「そう言う点ではごめん、あたしだけ突っ走ってたから・・・。いろいろと説明できれば良かったんだろうけどそんな暇が無くて」
「ティアさんのことにしろ、王子のことにしろ、そして皇太子のことにしろ。事態が直ぐに動いて、こっちが動く頃には手遅れになりかかっていたりしたからね。実際で言うと私や村長や先輩で食い止めるべきことだった。それをミュリシアが動いたことで、助けて貰った形になった」
ヴィルヘイムとしてはそこが念頭にあって、ランベルク王子の行動を支えたのはフローリス王女とミュリシア、そしてティアの三人。
一人でもかけていれば、今の状況は無かっただろうと思っていた。
人の絆は思いもかけない方向で動き、思わぬ方向へと導いていく。ランベルク王子やクォバス皇太子もとい新国王もそうだし、フローリス王女もミュリシアの影響を受けている。
それぞれ、ミュリシアの影響で何が出来るかや変化をすることによって、邪教にとって動きづらくなるようになっていたのだった。
そう言う点で、ヴィルヘイムはミュリシアの行動がエルドリンの防衛力を上げたと言う事実を悟るしかなかった。
ランベルク王子とフローリス王女に平民でありながら、気軽に話しかけられると言う物怖じしない点も多分二人に気に入られた理由の一つにあっただろうというのは推測出来たからだ。
「まさか、ここまでミュリシアが凄いことをしでかすとは私には見抜けなかったよ」
「マーラのことも、ランベルク王子のこともあたしだけで動いた訳じゃないです。みんなが望んだから、あたしはそれに力を貸したってことで良いんじゃないですか?」
ミュリシアは静かにそう言っていた。精霊の力を操れる唯一の少女だが、自らの力を過信することなくその力を使うところを決めているように見えていた。
そのあたりを考えても、ミュリシアが精霊と相性が良いのもそう言う部分があるからだろう。未だに完全な力となっているわけではない。
ただ、ミュリシア自身の器は精霊達の力を受けてさらに大きくなっているとヴィルヘイムは感じていた。英雄といわれるか、聖女と言われるかは分からない。
もしかしたら歴史に埋もれるかもしれないが、それすらミュリシアは気にしないだろうと思った。料理の師匠として、そして見守っている者としてそこだけは間違えようがなかったからだ。
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- 2008-07-06
- ブラキン小説
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ブラキン小説第130話「闇の精霊剣シルヴァンソード」
闇の精霊が宿ったシルヴァンソードは、ミュリシアのための剣。そのため、剣自体の長さに釣り合わないほど軽い材質になっている。女性でも扱えるようにと配慮はしてあるあたりが心憎い。
(ミュリシア、闇は貴女をいつでも見守っています。心に迷いが出たとき、闇を思い出してください。その暗黒が貴女の心の光を思い出させてくれるはずです)
(闇の精霊さん、あたしから分離しても大丈夫なの?)
(この剣には、精霊の宿る器があります。力の衰えた私の器としては大きすぎるほどです)
闇の精霊はそう答えると、ミュリシアとの会話を止めていた。
それ以上語る必要はないと言うこととあまり移ったばかりで会話をすることは消耗を早めるようだ。なじむまでに少々時間がかかると言うことも考慮に入っているらしい。
「ふう、これで一安心かな?」
「学園内で、これ以上騒ぎが起こることはないと思います」
「これで、また騒ぎが起きてもこっちが困るよ」
イ・オの言葉にミュリシアが少しため息をつきつつも答えていた。
エルドリンに来てから一月が経っていたが、その5割くらい騒ぎに巻き込まれていたりしたからだ。流石にここまで多いといい加減うんざりもすると言うもの。
ここのところ騒ぎが続いていたから静かな日の方が少なかった。エルドリンは都だけあって、騒ぎに事欠かない場所だった。
四方をモンスターの巣に囲まれていると言う地理条件と邪教が跋扈している状況を考えればこうなるのは必然ではあったのだが、それでも納得が出来るかどうかは話が別。
「ここのところ、バタバタしすぎた。王家もごたごたしたりしたのもある、ティアの一件で煩わせたからな。真面目にあのときは辛かったな」
「やはり、ティアが居ないと落ち着きませんし・・・。居てくれないと困るのはお兄様もわたくしも一緒です」
「あれは、こっちも望んで手助けしましたからそこは良いんですけど・・・」
「邪教が学園内まで入れる状態ってまずいんじゃないのかなー?」
リリアンがぽつりと言った言葉が、ミュリシアの言いたいことを表していた。
邪教がエルドリンの中枢近くまで入り込める状態はあまり良いとはいえない。実際転覆を狙って動いたことすらあるのだから。
前の計画はおじゃんにしたが、それでも国王自体が倒れるという事態を招いただけになかなかうまくはいかない。
未だ邪教の底力は計り知れず、数の上では劣勢に立たされているのもまた事実だ。
ランベルク王子の力だけでは足りない状況下で、ミュリシアとイ・オの力はかなりの手助けになっている状態だ。
エルドリン自体の治安はミュリシアたちが来る前よりも良くなってはいたが月下の墓地や崩壊した監獄などまだまだ危険地域が残っているため、まだまだ改善の余地はあった。
「どちらにしても、まだあたしやイ・オちゃんの力が必要になることがあるってことかな?」
「あたしよりも先輩達の方が力は上。古代エルフはあまり成長することはありません。その点先輩達はまだまだ力が伸びます」
「うーん、あたしの力は精霊さん次第だからまだかかると思う」
精霊は、人が多いところを好まない性質を持っている。エルドリンにいる限り、精霊達に触れることはないからこれ以上力が伸びることはない。
弱っている闇の精霊の力が戻ればまた違うのかもしれないが、そう言うことでもなければこれ以上力が上がることはないはずとミュリシア自身は思っていた。
学園内での騒動が収束したことで、ミュリシア達とイ・オとエセル。そしてランベルク王子とフローリス王女は、エルドリン市街に出た。
収穫祭と併せて新国王の就任と言うこともあり、祭りの熱気は高まる一方だ。かなりの露店が並んでいて、いろいろと売っている。食べ物から果物や果てはおもちゃなどまでと幅広く並んでいるのはエルドリン最大のお祭りだからだろう。
「今回のエルドリン収穫祭は、かなり大規模だから楽しめそうだ」
「もう、お兄様。あまり羽目を外しすぎてはダメですよ?」
「毎度のように言うなフローリス。俺はただ祭りを楽しみたいだけだぞ?」
「それで、お母様に怒られていたのではどうにもなりませんわ」
フローリス王女としてはここで釘を刺しておかなければ、お祭りで遊びまくると分かっているだけに言っておかなければいけないと思っているようだった。
ランベルク王子は、王家の人間としては砕けた思考の持ち主だけに収穫祭を通して市民と交流したりするのもまた楽しいことだと思って行動している。
それだけに、いろいろと問題があるのも確かだがお高くとまっているのはランベルク王子の好みではないと言うことだけは確かで、それが市民達から好かれる一因にもなっていた。
お祭りだからとお祭りの場で楽しく遊ぶ王族は早々居ない。それだけに、ランベルク王子は王族としては異端児ではある。が、そのことが良いことに作用しているのもまた確かだった。
普通王族ならば、お祭りがあろうとも外に出ないのが通例でフローリス王女は王族としては末端という位置づけのためそこまで問題にはならない。
が、ランベルク王子は王弟という立場上普通はおいそれと市民達の前に顔を見せないのが王族としての一般的な感じなのだが・・・。
そんなことをお構いなしに、お祭りに遊びに行くのがランベルク王子がランベルク王子たるゆえんでもあった。
「俺は楽しめることは楽しむタイプだからな」
「お兄様が国王になったら、砕けた国が出来上がりそうですわね。それもそれで面白そうではありますが、あまり羽目を外しすぎてもダメですよ」
「母上のようなことをあまり言うなよ。フローリスがしっかり者なのは分かっているが、あまり言われると気分が良い物じゃない」
「ふふっ、義理のお母様のまねはこの辺にしましょう。実はわたくしも楽しみにしていたのですよ」
やはり、お城の奥やエルドリン学園を除けば移動範囲に制限が付く王族だけにお祭りはまた格別のようだ。
王族は、外出等にかなりの制限が付く。
ランベルク王子はエルドリン防衛の要、エルドリン治安部隊総隊長を務めているため警戒がてら町に出ることも出来るが、任務は任務。
こうやって、街に出て騒ぐなどと言うことは許されては居ない。
だからだろう、二人とも楽しそうなのは・・・。待ちに待ったと言う方が正しいのかもしれない。
そうやって話をしていると、メイドのティアもやってきた。どうやら、宮廷料理長が多少取りはからってくれたようだ。
それに、式典最中はメイド達の仕事もかなり減るためにいつも働いているティアに対して、料理人達は同情的でもある。そのことでメイド達にやっかまれていたりもするのだが、本人は気にしても居なかった。
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- 2008-06-22
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ブラキン小説第129話「精霊の宿りし剣、剣聖の気迫」
(少し前に上げた130話と合体させています)
そして、その輝きを放ったシルヴァンソードに、闇の精霊が持てる力の全てを注ぎ込んだ。
(いつまでも、ミュリシアに甘えては居られません。闇の力の影響をこれ以上受けては、精神の平衡を保てなくなるおそれがあります)
そう言って、闇の精霊がシルヴァンソードに宿るとあたりを漆黒の闇の気が覆い尽くした。
さっきとは違って、光と闇の混合。
そうなってくれば、光と闇の相乗効果で目が使い物にならなくなるのは仕方がないことだった。
人間の目は、強い光と漆黒の闇を同時に視覚することはできない。交互であったとしても、強い光と漆黒の闇は相乗効果を生み、人間の目を使えなくする。
シャドーは別としても、ナバル達はこの相乗効果で視覚を奪われたも同然だった。
光と闇が同居する剣はほぼない。ミュリシアだけが扱える剣、シルヴァンソードは鋼鉄を基本としていたシャドウソードとは違い、既に材質が銀と鋼鉄の混合材に切り替わっていた。
銀は魔を払うと言われるもの。それだけに、精霊達の力も宿りやすいようだった。
光と闇を纏う刀身に、緑色の柄が鮮やかに映ってミュリシアの姿を浮かび上がらせていた。
次々に襲いかかるナバルの剣に、シルヴァンソードで対応する。イ・オもミュリシアの側により、ユグドラシルブレードを抜く。
その剣は、プラチナの光をまとい水色の柄を持つ。そして、魔力を元に切る魔法剣でもあった。
魔力を高める効果をも兼ね備え、神具と言われる。
ナバルの呪いを込めた剣をミュリシアはシルヴァンソードで合わせると、200年以上も使われている剛剣がたやすく刀身を切られて宙を舞った。
ミュリシアとイ・オがナバル達の相手をしている間に、ランベルク王子の精霊剣カシャが閃いてはナバル達が倒れてゆく。
既に、シャドーとの距離は詰められていた。
「精霊カシャの名において、邪教カラシアンの跳梁は許さん!!」
「くっ、だが我が刀の切れ味とくとお見せしよう」
シャドーとランベルク王子が対峙すると、その場は相当な緊張感に包まれた。互いに集中力を研ぎ澄まし、そして相手の隙を探る。
一挙動も見逃さない。そんな緊迫した場が形成されていた。
その間にも、残ったナバル達がミュリシアとイ・オに仕掛ける。こうなってくれば、ミュリシアとしても本気を出さざるを得ない。無論イ・オも同じだ。
「こうなったら、本気を出すしかないね」
「ですね、エセルに見せるのは正直辛いですけどそうも言ってられません」
イ・オとしても覚悟は決めたらしい。そうなってくれば、ミュリシアも覚悟を決めるには十分だ。
「それなら、あたしも本気を出して良いかな。光、闇、風よ。あたしに力を貸してくれる?」
ミュリシアの呼びかけに、シルヴァンソードの輝きが増していく。そして、ウグイスポムや風の手袋、闇の髪飾りがミュリシアの能力を押し上げて、ミュリシアの能力を最大限に発動させていた。
光の精霊の力を受けたことで、さらにミュリシアに眠る力が目覚めた。
光の力、闇と対照になる力。その力は、計り知れない。闇と光、最高峰の力と言われし二つの力を扱えるようになったミュリシアは、その才能をさらに開花させていた。
(光がミュリシア殿の道しるべとならんことを)
(光の精霊さん、ありがとうございます)
(お礼には及ばぬ。我が力、ミュリシア殿に預けよう)
光の精霊の言葉とともに、闇の髪飾りと対となった光の髪飾りがミュリシアの髪の毛を飾っていて、そのオーラは暖かい日差しを思い浮かばせていた。
二つの髪飾りは、お互いに存在を主張するように闇と光でミュリシアを保護していく。
ナバルと互角にやり合う二人を見て、シャドーはミュリシアとイ・オの力を侮っていたことに気づいた。
「なっ、まさか」
「今頃気づいたのか?遅いやつだな、あれだけの力を持つ人間とエルフを気づかないとは」
ランベルク王子からしてみれば、ナバル達と手合わせが出来るあたりで気づけと言いたかったようだ。それだけの力量を持つ人間は少ない。なおかつ、ミュリシアは少女であることを考えれば、いかに特殊か分かろうという物だ。
ランベルク王子は、素早く精霊剣カシャを一閃させるとシャドーもそれにあわせるように刀でこすりあわせた。
力と力ならば、ランベルク王子に一日の長があった。
甲高い金属音とともに、シャドーの刀を弾くとその隙をついて・・・。
「剣技クロスブレードプラス!!」
十字切りに追撃の突きを加えた3連撃がシャドーを襲いかかった。体勢を崩された状態から、一撃は避けた物の、2撃目と3撃目を受けてかなりの体力を失っていた。
技を繰り出したランベルク王子は、涼しい顔だ。
「この程度でつぶれるようならば、手応えがなさ過ぎる」
「くっ、剣聖を継ぐ者の剣は伊達ではないか」
シャドーとしても、初めてやり合う相手だけにここまで出来るとは思っていなかったようだ。噂は聞いていたが、これ程の腕前を持っていようとは。
が、腕の立つ相手とやり合うことは剣者として望むべきものだ。
「久しぶりに血が騒ぐわ」
刀を持ってシャドーは、技を繰り出す。
「闇を持って、切り裂く一陣の刃。ダークスレイ!!」
「剣技ハームディフェクト!!」
闇をまといし刀がランベルク王子を襲うと同時にランベルク王子も技を繰り出していた。
ぶつかり合う剣と刀。が、流石に元々の材質が違いすぎるためにシャドーの刀が限界に達していた。
折れる音とともに、ランベルク王子がさらなる一歩を踏み込んで。
「勇者ルーメン直伝バッシュストライク!!」
疾風のように流れる剣がシャドーを捕らえると、瞬時に3連斬を決める。剣技としても高位の技だけに、かなりシャドーが堪えたのは言うまでもない。
「我が刀が折れただと・・・。ふっ、ふはははは」
シャドーが傷を負いつつも笑い出した。それをランベルク王子が呆れた顔をしてみていた。
一気に緊張感もなにもぶっ壊したシャドーに、ランベルク王子とフローリス王女が冷たい視線を送る。
気分としては、なんだこいつと言うのが一番ふさわしい気がした。
が、シャドーの刀がそこで折れた部分から闇の刃が生まれた時点でランベルク王子は切り札かと気づいた。
「俺と同じく闇の刀シャドーの切れ味、存分に味わえ!」
その声につづいて、ナバル達も再度動き出した。
その行動にあわせて、ミュリシアとイ・オが前に出る。
そして・・・。
「ミュリシア!」
「イ・オ、サポートするからね」
リリアンとエセルの言葉と同時に、二人が同時に神聖呪文を唱え始めた。しかも、リリアンとエセルの唱えている呪文が別で、両方とも双方を補うように呪文を口にしていた。
「神のご加護を守りの力にとして発動せり、ブレッシング!!」
「天使の守護の力をここにお借りし、体力を増強する糧とならん。セーフプロテクション!!」
二人の魔法が一気にミュリシアとイ・オを保護していく。そこに、ミュリシアもシルヴァンソードの力を解放するために、剣を地面に突き立てた。
「剣の力を解放して、マイティーソウル!!」
一気にシルヴァンソードの力を解放して、その刀身が白と黒のオーラに包まれていく。
光と闇が共存する唯一の剣は、ミュリシアの力に反応してその力を解放していた。
そのオーラは、ナバル達の足止めをするには十分で精霊の力を恐れたナバル達はそれ以上近寄っては来ない。
一方、シャドーと対峙したランベルク王子は、静かに息を吐いて集中し始めた。その状態に、シャドーが攻め込むがそれを軽々と受け止める。シャドーの振るった刀の速度はかなり速い。
それでも、ランベルク王子は余裕で合わせていた。
「くっ、あの速度で受け止めるだと!?」
「殺気が前に出ていれば、ある程度の剣士なら合わせられる」
ランベルク王子は理由を短く告げると精霊剣カシャの力を解放した。
「目覚めろ、精霊剣カシャよ。マイティーソウル!!」
黄金の光が刀身に宿るとランベルク王子が剣を両手で持った。
「久しぶりに本気を出してやる」
片手剣である精霊剣カシャを両手で持つというのはいにしえの剣聖と同じスタイルだ。片手でもつのと違い両手で持った場合の威力は数段違う。
盾が使えないと言う制限はあるが、それを補ってあまりある威力に速度があってこそ出来るスタイルとも言えた。
初めて見ただけに、ミュリシアとイ・オも驚きの表情を浮かべていた。
「両手持ち!?」
「いにしえの剣聖の持ち方と一緒」
イ・オは、流石に気づいていたがランベルク王子がそこまで知っているとは思っていなかったようだ。
が、いにしえの剣聖は元々エルドリン王家の人間であり、その記述をフローリス王女が見つけていたのだった。
グランドマスターオイゲンも剣聖のことを知っていたから、その知識を王子に与えていたし、王子もそうなるつもりで修行をしてきた。
そして、そのスタイルを身につけたのはカシャの剣に認められて数年後のことだった。
こうなった王子を止められる人間は多分まず居ない。
シャドーとしても、その構えから感じる気にその場から動くことを躊躇するしかなかった。下手に動けば相手の間合いに入るのは明確で、入ったとたんに斬られるのは言うまでもない。
まさに気迫が違いすぎるというのが一番わかりやすいかもしれない。
ランベルク王子から発せられる気は、痛いほどになっていた。
ミュリシアとイ・オはその気を感じつつもミュリシアは精霊の力で、イ・オは神剣ユグドラシルブレードの魔力が保護していたために問題はない。
後ろのリリアンとエセルは、リリアンが前に立ってエセルの盾になっているからそこはそこで問題は無かった。
むしろ敵側が王子の気迫で気圧されていた。
生き残っているナバルなどは、王子から感じる気で居すくんでしまい動くこともままならない。
「シャドー、貴様にプライドがあるなら一騎打ちを申し込む!!」
ランベルク王子は、シャドーにそう言いきった。
この状態で動けるのはシャドーのみ。ナバルなど後でも平気だからこそ、言える言葉だ。
「剣者として、引き受けるか引き受けないかどうする!?」
ランベルク王子の問いに、シャドーは引き受けるしかない。
もし、ここで引き受けなければ剣の道を断たれたと同意義になってしまうからだ。
「貴様との一騎打ち、剣を使う者として受けて立つ!!」
シャドーの答えに、ランベルク王子は頷いた。
シャドーとランベルク王子の間には、誰も触れられない空間が出来上がっていた。
双方の間合いが、互いを牽制していて動くことは相手を倒せる時か死ぬときかどちらかだ。
その場を沈黙だけが支配していた。が、機を感じ取ったのか先に動いたのはランベルク王子だった。
シャドーに動く間を与えて、シャドーがその間に応じて仕掛ける。
剣と剣が交錯し、ランベルク王子はシャドーの剣に打ち合わせて、再度間合いを取り直す。
幾度か打ち合わせて、ランベルク王子は一端間合いの外に出た。シャドーはそれに併せて、間合いを積めていく。
そこで、ランベルク王子が動いた。
シャドーとの間合いを詰め切るとシャドーより一歩前に踏み出して。
「いにしえの剣聖が使いし技、ジャストクラッシュ!!」
精霊剣カシャが光のように、そして高波のようにシャドーの体を切り裂いていた。
たったの一撃、だがその一撃は下手な奥義にも負けない一撃だ。
「なっ、なんだと・・・」
シャドーは、それだけ言い残すとその場に倒れた。
そこに・・・。
「流石はランベルク王子。いにしえの剣聖の技すら使いこなすとは・・・」
「邪教か!?」
ランベルク王子の声に答えたのは、一人のやせた中年の男だった。
「邪教カラシアン主教カラシアン」
「貴様が!?」
「そして、精霊の力を使う娘に古代エルフの巫女の末裔か・・・。覚えておこう」
カラシアンはそれだけ言うと、ナバル達と一緒にその場から消えた。
まるで瞳に闇を映し出しているかのような漆黒の瞳に生気は全然見えなかった。
その瞳を見て、ミュリシアがぽつりと漏らした。
「あの人、人間じゃない・・・」
「だろうな、あの漆黒の瞳。どう見ても人間の瞳じゃない」
「神の眷属のような気を感じました」
ミュリシアの言葉に、ランベルク王子もイ・オも賛成した。
邪教カラシアンの横やりもあり、学園内での武術会はなしと言うことで決着がついた。その方がミュリシアにしてもイ・オにしても都合が良かった。
実際、邪教と戦っている図を他の生徒達が目撃することはなく。無かったこととして処理されていた。
どちらにしろ、なかったと言うことにした方が無難であることは間違いない。
ここに、邪教カラシアンの親玉が来たなんて分かった日にはかなりのパニックを引き起こすことは分かり切ったことで、収穫祭に影響が出るのは避けられないだろう。
そうなるのを考慮した上で、ランベルク王子とフローリス王女がここに来ていたことは幸いだった。
「ふう、抜け出してみれば邪教が跋扈してるうえに親玉まで出てくるとは思いもしなかった」
「お兄様、それでもちょっと満足そうな表情をしていますわ。でも、あまり心配させないでくださいね。結構見ている方は冷や冷やするものなのですから」
見ていたフローリス王女としてみれば、あまり良い感じではなかったらしい。
「あはは、フローリスにそう言われたらどうにも言い返せないな。で、ミュリシアの剣だが相当凄いな。儀礼剣でも使えそうだ」
釘を刺されつつも、ミュリシアのシルヴァンソードを見て思わずそう言っていた。
ミュリシアのシルヴァンソードは、黒白そして緑の三色に彩られつつも白銀の装飾を施された優美なサーベルに近い剣。
それだけに、儀礼用で使っても問題ないほどのきらびやかさを持ちつつもその優美な刀身とは裏腹に切れ味もまた一級品だった。
「光と闇と風の精霊さんの力の結晶。凄い剣だと思うよ」
「先輩の思いがこの剣に宿ってる気がする」
「イ・オちゃん、それどういうこと?」
「確かに、その言葉気になるな」
イ・オの言葉に、ミュリシアとランベルク王子が首をかしげる。
でも、リリアンやエセルには納得できたようだ。
「ミュリシアだからこそ、この剣を生み出したんじゃない?」
「ミュリシア先輩と精霊さんたちの思いで出来ているってことなのかな?」
二人が口に出したことこそが、正解なような気がした。
ミュリシアだからこそ、精霊達が送ったのだと何となく察することが出来た。
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- 2008-06-21
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ブラキン小説第128話「エルドリン王都武術会4」
教師の中に邪教の構成員が混ざり込んでいる可能性を感じ取ったランベルク王子とフローリス王女は動き始めていた。
教師達の行動に疑問を感じたこともあり、二人は教師達がいる場へと動く。
その間に、ミュリシアとイ・オの決勝戦は始まろうとしていた。
「これって、選抜なんだよねえ?」
「ですね。それにしては大がかりすぎますが」
流石にここまでくれば気づくこともある。そうなってはということで、ミュリシアとイ・オは手打ちをすることにした。
「ねえ、イ・オちゃん。これって全力出す必要ないよね?」
「元々ここで、全力を出すと思っているのならおかしいと思いません?」
「そうだよね、これで力を出すなんて思ってるんだもの」
「あたしと先輩の力は、使いどころを決めている物。表沙汰にする物でもない」
イ・オの言葉に、ミュリシアも頷く。
決勝戦、そこの場に現れたのはさっきまでの教師とは違い、見たこともない教師だった。学科が違えば、流石に見ることもないから気にもしない二人だが何となく違和感を感じていた。
(誰だろう、この先生。なんか、闇を感じるのはなぜだろう?)
(この先生、普通の人間じゃない・・・。暗黒の気を放っている時点で、この学園の関係者とは思えない)
二人とも、教師に闇もしくは暗黒の気を感じていた。
闇の精霊が醸し出す雰囲気とも違う、安らぎなき闇の感じは二人に警戒させるには十分だった。下手に殺気を放っているよりも危険な感じを与えているのだから尚更だ。
邪教の関係者と思わせるには十分な出来事で、ミュリシアは今までとは違い集中することにした。
シャドウソード改を握りながら、静かに集中力を高めていく。
イ・オも市販の剣ではなく、ユグドラシルブレードを引き抜いて対処することを決めていた。古代エルフとして、本能がそうさせていた。
二人が静かに集中力を高めていく中、ランベルク王子とフローリス王女は決勝戦の場に姿を現していた。
「やはり、潜んでいたか」
「どうもおかしいと思いましたわ・・・」
王子と王女の言葉に、決勝戦の場に現れていた教師が笑い出した。
「くっくっく、今頃気づくとは・・・」
「今頃か、このエルドリンの都に度々仕掛ける体力がお前達にあるとはな」
王子の言葉に、教師の面をした男が愉快そうに口を開いた。
「我が邪教カラシアンの人員を甘く見てましたな。あのくらいの手勢が消えたところで、そこまで痛手にはなっていないのです」
「なるほどな、人海戦術としては悪くない。が、二人の能力を見たいというのは少々やりすぎだな」
「さて、どうでしょうかね?」
教師の面をした男は、指を鳴らすとそこにぞろぞろとナバルの集団が現れた。
それを見ても、ランベルク王子の表情は変わらない。
生徒達は、ナバルの集団に体育館から出て行く。教師の面をした男はそれを見逃した。
「雑魚どもに用はありませんからねえ」
さらっと言い放つ当たり、元々狙いはこっちだけのようだ。
ランベルク王子が平静を保っているのを見て、不可解そうな声を出した。
「まあ、こんなところでしょうかね。それにしても、不可解ですね。これだけの数ですがね?」
「これだけの数か、なかなか面白い」
ランベルク王子としては、この頃鬱憤が貯まっていたことに付け加えて発散する場が無かった。
「良い肩慣らしにはなりそうだ」
流石にその言葉に、教師の面をした男も驚いた顔をした。
「この数を相手に肩慣らし・・・。流石、邪教に敵対するだけはある」
「少し時がずれていればまだやりようはあっただろうに、今日の俺は血に飢えてる。生きて帰れるかな?」
「お兄様の気持ちも分かるから、この場は任せますわ」
フローリス王女は、ランベルク王子の気持ちをよく分かっていた。
身を守る術を持たないフローリス王女に、いつの間にかティアが側に付いていた。
「王女様、お守りします」
「ティア、お願い」
「あたしのお仕事ですから」
主従が頷くと、ミュリシアとイ・オの二人も剣を抜いていた。
「結局こうなったね」
「ですね、どうもおかしいと思った」
イ・オとしては、呆れた表情を浮かべつつもそう言っていた。古代エルフの勘で変だとは感づいていても、実態が分からないので口にも出さずにいたのだ。
「実態が分かれば・・・」
「剣を試す良い機会だね」
ミュリシアとしては、そう捉えていた。邪教がこの場に現れたのは試し切りをさせてくれるためなのだと勝手に解釈して。
シャドウソード改、その切れ味は未だ見せては居ない。切っていないのだから尚更だ。大体剣を巻き上げて、相手の手の中から消していたのだから・・・。下手して、折れてしまう剣もある。
おかげで、試し切りすらしていなかった。
ナバルならば、その相手に不足はない。
そうなってくれば、駆けつけてくるのが仲間というかなんというか・・・。
「ミュリシア、エセルちゃんも一緒に連れてきたよ」
「リリアン、いいの?」
「もう、何か変だなーって思ったらこうなってたなんてね」
リリアンも変に鋭いところがあるだけに、気づいたと言うことのようだ。それで、エセルも一緒に連れてきたみたい。
「イ・オ、私も一緒に良いよね?」
「エセル、あたしにエセルの行動を止める権利はないよ?」
「傷なら治してあげる。何とか頑張ってみるから」
エセルの言葉は控えめだけど、勇気がその言葉には込められていた。イ・オもその言葉に頷いて。
「エセル、大丈夫。先輩方もいるし、あたしも頑張る」
イ・オの言葉にエセルが頷くと、教師の面をした男がつばを吐き捨てた。
「なに、この友情のオーラは・・・。くそっ、反吐が出るぜ!」
「そう言うのなら、手勢のナバルだけでなくお前も出ればいいだろう」
ランベルク王子としてみれば、そんな言葉を吐く男をさらっと挑発していた。はっきり言うならば、この場でネズミは一掃しておきたい気持ちと今まで貯まったストレスを発散したいと言う思惑が見え隠れしていた。
それだけ、ランベルク王子の鬱憤がたまっている証拠でもあったけれど・・・。
教師の面をした男は、その言葉に耐えきれなくなったように正体を現した。その正体は、シャドー。バーニングストーンのさらに先にある沼地に現れる影の剣士だ。
「ほう、シャドーか。なら俺の剣と勝負!」
「ランベルク王子、貴様に我が剣見切れるか!?」
「その言葉そっくりそのまま返そう。俺の精霊剣カシャを止められるなら止めてみろ!!」
その間に、ミュリシアとイ・オの二人は完全に戦闘態勢に入った。
「さてと、イ・オちゃんは手の内を見せたらダメだよ?」
「先輩こそですよ?」
「ううん、あたしは大丈夫。今手の内を見せても、いつまでもそれが切り札とは限らない」
ミュリシアは、着実に腕を上げているためその言葉が自然に出ていた。
エルドリン学園ではランベルク王子に続く腕前の持ち主ともう噂されるほどになっていたからだ。教師を相手に稽古を積んでいるのもミュリシアとイ・オだけ。生徒達とやっても話にならず、教師自らが出なければならない程になっていた。
それだけに、さらに磨きがかかり始めていた。
ミュリシアの剣は、さらに成長を続けているのだから・・・。
シャドーと共に現れたナバル達が動き出すと同時に、ランベルク王子が動いた。
「精霊剣カシャの錆になりたいやつはかかってきな!」
その言葉に応じて、ナバル達がランベルク王子の元へと殺到する。
が、それに応じて王子は一端精霊剣カシャを鞘に収めていた。
好機とみたナバル達が攻め込む。
ランベルク王子は引きつけるだけ引きつけると、鞘から抜き放った。
「精霊剣カシャの切れ味とくと味わえ!」
剣を一振り、二振りと振るうたびにナバル達の屍が出来上がる。200年以上前に鍛造された鎧ですら、軽々と切り下ろせる剣は少ない。
それを見たシャドーは、残りのナバルたちをイ・オとミュリシアのところへと向かわせた。
そうなってくれば、ミュリシアも本気で行く。
一気に、自身の力を解放していく。
「風の精霊シルフ、そして闇の精霊さん力を借りるよ」
(ミュリシアの思うままに)
(ミュリシアの心と共に)
一気に、能力を解放したミュリシアは風と闇の力を受けて一気にナバル達との間合いを詰める。
そこに・・・。
(ミュリシア殿、闇と光は一対。光の心も)
(光の精霊さん、光は忘れていません。闇も光も、あたしの心にあるから)
(光の力、今ここでミュリシア殿の力となろう)
光の祝福を貰っていたが、力を託されては居なかった。
(闇だけではなく、光も同じく。その剣に祝福を込めて)
シャドウソード改に、光の精霊の力が込められていく。その光は、一気に周囲を覆い尽くした。
「なっ、この光は・・・・」
「ミュリシアの力の一つか」
ランベルク王子は、無意識に呟いていた。シャドーはその言葉を聞いて、まさかと思った。
「なっ、まさかこの力は精霊の力!?馬鹿な、古代エルフでもなければその力扱えるわけが!?」
動揺を見せるシャドー。精霊の力は祝福を受けただけでも、常人を越えると言われるもの。
邪教でも欲しがったが、それでも手に入れることは敵わなかった。そう、精霊は心に祝福を与えるもの。そして、自ら認めた者にしかその祝福を送ることはない。
闇の力を与えられた剣、シャドウソードに光の力が加わり、そして・・・。
(光の精霊が剣に祝福をかけるのならば、私も剣に祝福を・・・)
光の力が消えると、猛烈なまでの風が吹き荒れた。そして、風もシャドウソードに祝福と力を与えていく。
光と風がその場を支配し、人間達を尻目にミュリシアの手に三つの精霊から祝福された剣が風に乗って手に収められた。
光、闇、風の三つの力を込められた剣はその輝きを放ち、黒、白、緑の三色に彩られ、刀身は黒と白、柄と握りが緑という特殊な剣。
なだらかに反りを加えられたその剣は、ミュリシアが前に使ったカールスが打ったサーベルに似た形となっていた。そして、その精霊からの力は計り知れない。
(我ら、3精霊の祝福の証受け取ってはくれまいか?)
(闇、光、風の祝福を受けて折れなかった剣。やはり、あの人が作った剣だけはあります。そして、魂を入れ直してくれたあの人の師匠にも感謝を言いたい)
(風が出来る最後のこと、その剣を受け取ってミュリシア。その剣、名付けるのは貴女よ)
「シルヴァンソードで良いかな?」
ミュリシアが思いついた名前に、精霊達は頷いてその場から離れた。
光と風がその場の支配を止めると、シャドーはミュリシアをターゲットに決めていた。
「貴様、精霊の力を得る者ならば消してやろう!!」
シャドーが動くが、その前にランベルク王子が立ちふさがった。
「お前の相手は俺だ。ミュリシアを消すつもりならば、俺を倒していけ!」
「くっ・・・」
相手の強さを知っているだけに、シャドーとしても余り踏み込めない。
ランベルク王子としては、ミュリシアを消されるわけにはいかない事情があった。そして、邪教相手ならば全力を出せたのだ。
「素早さが信条の貴様と力の俺、どっちが強いか勝負だ!」
近寄るナバルを次々と切り倒し、シャドーとの間合いを詰める。
その間に、イ・オは神剣ユグドラシルブレードを抜いていた。
「エセル、古代エルフの力見せてあげる。本当なら見せたくなかったけど、嫌われても良い。ここの場は抑えなきゃ・・・」
「イ・オ、力が強いと嫌うの?」
エセルの言葉に、イ・オは驚いた顔をした。そこにナバルが襲いかかるが、それをミュリシアがシルヴァンソードで弾いていた。
「イ・オちゃん、カバーは任せて」
「先輩、済みません」
「ううん、良いの。気にする事じゃないよ、あたしも本気で行かないとね」
ミュリシアは、シルヴァンソードを掲げると一気に刀身がまばゆく輝きを放った。
一気に輝きを放ち、シルヴァンソードの力を解放していく。精霊の力を持つ剣は少ない。それだけに、その力は相当な物。
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- 2008-05-31
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ブラキン小説第127話「エルドリン王都武術会3」
順調に、第三回戦と準々決勝を勝ち上がったミュリシアとイ・オは生徒達の腕と自分たちの腕の落差が激しいことに気づいていた。
やはり、実戦経験があるかないかの差は、腕に如実に表れる。
基本的に貴族の子供が多いエルドリン学園では、流石に実戦経験者は少ない。ルーメン学院よりも実戦経験者は少ない傾向にあった。
そのため、実戦経験豊富なミュリシアやイ・オは学園の中でもかなり異質の存在であった。
「流石にあの二人相手じゃきついな」
「あの技、早すぎてついて行けねえ」
生徒達がぼそぼそと噂をする中、当人達はその噂に耳を傾けることなく控え室にいた。噂を気にする暇がないのが本音だった。
それでも、二人が在籍するクラスは二人を応援していた。むしろ、一年生全体がと言うべきかもしれない。二人とも上級生を越える腕の持ち主だけに、きっちり勝ち上がっていくのを尊敬のまなざしで見ていたのだ。
「やっぱり、お二人とも凄いですわ」
「だよな、あっさり上級生が負けていくのを見てると凄いよな」
女子生徒も男子生徒も、ミュリシアとイ・オの腕前を認めていた。
前にも書いたとおり、一年の中でも平民が主体のクラスだけに落ちこぼれが多かったが、二人が入ってから二週間ほどで大分腕前を上げた生徒が増えた。
教師より教え方が上手いとも言われる状態で、ミュリシアとイ・オはむしろ教師を相手に稽古を詰んでいた。
それでも、生徒達との稽古もして基本を見直す事もしていた。そのためか、腕を上げる生徒が増え始めて教え上手と言われ始めているのを二人は知らない。
そして、準決勝に勝ち上がった二人は最上級生と当たることになっていた。
流石に、最上級生と言うことで二人の実力を見て分析。大分、冷静に動いてくるだろうと二人は思っていた。
「次、準決勝だね。大分、強い人が出てくるだろうけど」
「そうですね、大分腕は上がってくると思います」
最上級生となれば、大分教師と近い位の実力を持っていてもおかしくはない。
それでも、本気の二人にとってはまだまだぬるいのだけれどもそこは口には出さない。人間や普通のエルフを遙かに超える力を扱う二人にとって、本気を出すことは余りしたくはないことだった。
その頃、教師達は未だに本気を出さないミュリシアとイ・オにじれていた。
「準決勝まで軽く勝ち上がられるとは・・・」
「我らの教え子たちがあれほどあっさり負けるとは思いませんでしたな」
教師達としては、あれほどあっさり負けるとは思ってもなかった。準々決勝で二人が当たった生徒は、二年生の中では指折りの実力の持ち主。
それでも、あっさりやられていた。その強さが、どうも気になってしょうがない。
実際ランベルク王子と稽古が出来る程とは聞いていたが、それでもここまでとは思っていなかったからだ。
ちなみに、実力をよく知っている一年生教師はこの状況の外にいた。
「上級生の先生方は何をお考えなのやら、さっぱり分からんな」
「あれだけの実力、認めたくないのでしょうね」
「妨害はしていないが、実力を計りたいならば自ら稽古をした方が早い。それを分かってはおられないようだ」
ルーメン学院とは違い、学年ごとで授業を行う。学年交流などをしないため、学院交流戦などに出られる一部生徒を除いてはミュリシアとイ・オの実力は噂で流れる程度でしかない。
実際、試合で対決した生徒たちはあまりの実力差にぐうの音も出ない状態だ。
「あれは、俺らがどうにか出来る相手じゃない」
「腕の差をまざまざと見せつけられましたわ。でも、意外とあっさりしてますけれど」
「あまりにもあっさりやられたから言葉も出せなかった」
と口々に言うあたりは、さらっと剣を弾かれて一本を取られたと言う証拠。
本当の力を出した二人に、エルドリン学園の生徒が手出し出来るわけもないのだが知らない方が幸せだろう。桁外れの力を持つということは、自制も人一倍必要なのだから。
ミュリシアもイ・オも、下手に人前で見せることはしない。持つ力が強力な故に。
準決勝となり、ミュリシアは優勝候補の一角と言われる三年生の男子生徒と当たった。
流石に三年ともなると、ある程度稽古を積んでいるだけに動き自体に隙を見いだすことは出来ない。
だが、ミュリシアとしてはそこまで来てくれないと同じ場には立つことは出来ないのだ。
三年生の使う剣はブリッジソード、対するミュリシアは見慣れぬ剣シャドウソード改。市販品とカールス
が打ち直した渾身の一作では、強度も切れ味もそして重さも違っていた。
「剣が漆黒だと!?」
初めて見る剣に、上級生である三年の男子生徒は驚いていた。
刀身が漆黒であり、サーベルのように細く鋭い刃を持っているシャドウソード改はこの世にただ一つしかない剣だった。
「これはちょっと曰くがあって、あたし専用なんです」
「お前のための一振りか・・・。羨ましいな」
最上級生はそう言うと、教師が試合の合図をした。
「準決勝、第一試合始め!」
その言葉と同時に、双方ともに間合いを取った。
ミュリシアは、ただ間合いを取ってからその場から動かない。剣は左正面に向けたままだ。
最上級生は、ミュリシアの構えを見て隙がありそうに見えた。
(自然な構えか、隙がありそうに見えるが・・・)
もうちょっと威圧してくると思っていたらしく、ちょっと拍子抜けした顔をしていた。ミュリシアはそれを見つつも、風のようにそこに佇むだけ。
その構えに、最上級生の男子から動き出した。
一気に間合いを詰めて、渾身の一撃を繰り出す。それをミュリシアは、軽く弾いて再度同じ構えを取った。力のこもった一撃をあっさりと弾かれて、最上級生の男子は自分の剣を忘れていた。
次々と仕掛けるが、それでもミュリシアは弾いて交わしていく。
次第に打ち込む側の最上級生の男子の息が弾んだところに仕掛けて、剣を巻き上げて首元にシャドウソードを突きつけた。
「勝者ミュリシア!」
審判の教師が勝者を述べると、会場が沸いた。
ミュリシアは、巻き上げた剣を最上級生の男子に差し出すとそれを受け取った。
「あれだけ捌かれるとはな・・・」
「今までの人に比べれば、数段腕前は上だと思います。良い稽古をしていますよ」
「それでも、敵わなかったか」
実力差を感じながらも、最上級生の男子は静かにそう言っていた。相手の力量を計ることが出来るだけ、実力を伴っていると言えるからだ。
イ・オが対戦した相手も学園内で上位の腕前だったが、それでもイ・オの剣捌きに屈していた。流石に、古代エルフだけに戦い方はよく知っているようだ。
古流剣術のような古代エルフ剣術を扱うイ・オは、エルフとしての異質の存在だ。巫女と言う役職もある上に、剣も扱う。
ミュリシアとはまた違う剣の使い手だけに、強さは実際指折りだった。
あっさりと準決勝を終え、決勝となったわけだが・・・。
ミュリシアとイ・オの対戦になっただけに、ミュリシアとしては苦笑を浮かべるしかない。
「結局こうなったね」
「そうですね。先輩どうします?」
「本気で戦うわけにも行かないし・・・。それに、仕組まれてる気がするんだよね」
ミュリシアとしては、真の実力を教師達が計りたいと思っていることをうすうす感じていた。それに対して、応えるつもりは毛頭ない。
そう言う状況の中、ランベルク王子とフローリス王女は試合を見ていて、呆れていた。
「ミュリシアとイ・オの実力を見たいんだろうが、これはダメだな」
「お兄様、余り良いことではありません。止めましょうか?」
「だな、少し考え違いをしているようだ。何を考えている?」
ランベルク王子としては、ミュリシアとイ・オの実力を計ると言うことは邪教の思うつぼだと分かっていた。それだけに止めるつもりは満々だ。
(まったく、何を考えている?)
ランベルク王子がそう思うのも無理はない。邪教の影響を受けた可能性があるとなれば、ゆゆしき事態であり、直ちに何とかしなければならない重大事。
ミュリシアとイ・オの決勝戦に、教師達の関心が集まっていた。
その中に、邪教の構成員が混ざり込んでいようとは思ってなかっただろう。
(これで、重要抹殺人物の力を計れるのならなんと簡単な事よ)
邪教としては、ミュリシアとイ・オの力を知っておく必要があった。イ・オのユグドラシルブレードとのコンビネーション、ミュリシアの精霊からの祝福を受けた力はかなりの脅威になることは分かっていたからだ。
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- 2008-05-24
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ブラキン小説第126話「エルドリン王都武術会2」
エルドリン学園内部での、代表選抜大会が始まった。
リリアンは、クレリック学科からなのでミュリシアとイ・オと別れてそれぞれ会場に向かった。
一応、学年トップクラスの実力を持つだけにミュリシアもイ・オもシードという扱いになっていた。
「なかなか、熱気があるね」
「実際、いい腕試しの場だと思います」
「それ位ですんでくれればね、あたしもイ・オちゃんも気苦労しないんだけど・・・」
ミュリシアはそう言って、教師達が座る席をちらっと見た。
教師達としては、ミュリシア、リリアン、イ・オの実力を見定めたいと言う思いがあった。はっきり言うと下手な教師では歯が立たない。
ミュリシアは実戦経験で剣を磨いただけにその実力は分かるが、それでも教師達にとっては不可解な面も多く。それを知りたいと思っていた。
イ・オの場合は、エルフとしての能力が跳ねすぎているためにその力を見定めたいようだ。
どっちにしろ、かなり迷惑なのは言うまでもない。それ以上に、その力を制限せざるを得ないことに気づいてないあたりがまだまだと言うべきなのだろう。
ランベルク王子が言うとおり、まだまだ教師達には学ぶべきところが多いようだった。
第一回戦が始まると、学園内部がかなりの熱気に包まれた。生徒達としても、日頃の鍛錬を試す場であるために盛り上がるのは必然だった。
真剣勝負なので、怪我は絶えない。そのため、クレリックがいて治癒できるようにしてあった。
下手すると死人も出たりすることもあるために、ハイクレリックになっている者たちが救護に当たっている。そのくらいの体制でないととてもじゃないがこんな大会を開くことはできない。
結構実力が近いために、手加減ができないなんてことも多々あるからだ。
ミュリシアやイ・オは第二回戦からの出場となった。第二回戦、第一試合にミュリシアは出ることとなった。
「出番みたい」
「先輩、ある程度で・・・」
「うん、分かってる」
ミュリシアはそう言うと、試合会場へと向かった。
会場はエルドリン学園体育館を使っていた。前の試験の時と同じ場所である。
ミュリシアは鍛え直されたシャドウソードを腰に下げて、体育館の特設試合場の上に立った。相手は同じ学年の男子生徒で、剣は新品のルーメンソードのようだった。
ミュリシアは試合前に会釈をすると男子生徒もそれにならい会釈を返した。試合開始の鐘が鳴ると同時に、男子生徒からミュリシアへと仕掛ける。それを軽くあわせて、剣をすくい上げると審判がミュリシアの勝利を告げた。
どうやら、剣が手から離れた時点で負けとなるようだ。拾いに行ってる暇はないと言うことなのだとミュリシアは理解した。
あまりにあっけなく終わったものだけに、教師達はミュリシアの本当の実力がどれほどかを見定めたいとさらに強く思っていた。
それが、ミュリシアにとって面倒なことになるのは言うまでもない。
「先輩お疲れ様です」
「疲れたってほどじゃないよ。あっさりといえばあっさりだったし」
「ですね、剣が手から離れてもダメ。後は有効打を与えた時点で勝ち、そして試合場から出たら負けですか」
「後は、倒れたら負けってところ。単純ではあるんだけど、これはっきり言うと結構けが人多いんじゃない?」
ミュリシアとしてはそう思わざるを得なかった。ある程度神聖魔法で治癒できるとはいえ、無茶してるなと思うのは当然だった。
「リリアンさんかエセルが居れば違うとは思う」
「だね、二人とも優秀なクレリックだもんね」
「あたしも、そろそろでないと行けないようです」
イ・オもそろそろ出番のようで、控え室から出て行った。
ミュリシアとイ・オの控え室は、他の控え室と違って隔離されていて、二人一緒なだけまともではあるが、その他の人物が入るにはかなりの勇気がいる。
イ・オの試合も、ユグドラシルブレードを使うまでもなくルーメンで売っている普通のブロードソードで相手を軽くいなして、終了した。
相手の攻撃にあわせて、首筋近くへの一閃を見せたことで相手の戦意を喪失させていたのだ。
あまりのあっけなさに、イ・オとしてもあまり気乗りがしない感じではあった。
「先輩、これ面白くないです」
「イ・オちゃん、そうさらっと言わなくても・・・」
「先輩は楽しいんですか?」
イ・オの問いに、ミュリシアとしては複雑な表情を浮かべた。
「うーん、あたしが巻き込まれなければ普通の試合と思ってたんだろうなあってね。巻き込まれてるから凄く面倒って思ってる」
「確かにそうですね。出たい人が出ればいいと思ったりはします」
「実際、あたしとイ・オちゃんの強さって普通の強さじゃないからね。どっちにしろ、ひけらかすものでもないし、強いのはランベルク王子がいるからそれで良いと思うんだけどな」
ミュリシアとしては教師達の思いが全然理解できなかった。
二人とも枠を超えた存在だけに、型にはめることなど不可能だと言うことを他の人たちは理解していなかったのだ。
当然、ランベルク王子やフローリス王女はその辺を理解していたし、その強さを持っているからと言って自慢することもなかった。
そうやって、二人で思ったことを話しているとランベルク王子とフローリス王女が控え室に入ってきた。
「学園の選抜大会はどうだ?」
「二人とも出てるって聞いて、やってきたのだけどどうかしら?」
「大体王子なら、あたしとイ・オちゃんの実力分かってるじゃないですか。大体どうなってるかは察してください。強制出場なんで、やる気出ませんよ」
「ですね、あたしも先輩も出たい人が出ればいいって思ってますからね。先生方の思惑だけがひた走ってます」
ランベルク王子もフローリス王女も大体教師達の思惑は分かっていたから苦笑するしかなかった。
教師達と接してまだ二週間にもならない。その間に、なんだかんだと実戦経験を積んでいるのだから普通の生徒たちでは歯が立たないのは当然と言えば当然。
それを鑑みてないと言うあたりで、どうにもならないのは分かっていた。
「どこまで質が落ちたんだ?強制出場ってあたりがなにか臭いな」
「確かに変ではありますわね。どうしたのでしょう?」
聞いていて、ランベルク王子もフローリス王女も腑に落ちない部分が出てきていることを察したようだった。
「確かに変だな」
「ですわね、どうしてかが不明瞭なのも気になりますわ」
「どっちにしろ、何もなければいいけどね」
「そうですね、何かを起こすにはこの場合早すぎます」
イ・オとしては、このところ立て続けに動いている事を鑑みてそう言っていた。
エルドリン襲撃に始まり、邪教が仕掛けてきたり、挙げ句の果てには王宮で騒動が起こったりとなかなか忙しい状態が続いたこともあって、これ以上の騒動はもう勘弁願いたかったからだ。
実質巻き込まれる側としては、これ以上の騒動はいらないわけで・・・。
「これ以上あると流石にあたしでも面倒って言うよ?」
「先輩のお気持ちはお察しします」
「確かに、俺もこれ以上はちょっとな」
「わたくしもそこに関して賛成致します。これ以上の騒動は良いとは言えませんもの」
騒動の渦中に引きずり込まれる身としては、これ以上の騒動はいらないと言うのが本音であって、それ以上でもなければそれ以下でもなかった。
実質新国王就任のお祝い時に、下手に騒動を起こされては国の威信にも関わるため、警備自体はかなり厳重ではあった。
先の攻防戦で、邪教もかなりの人的損害を出しているため今回は手を出してこないだろうと言うのが推測だった。
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- 2008-05-16
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