ブラキン小説第17話「波紋の森2 もう一人の仲間と初めての料理」
ミュリシアが森の奥から、海岸に出るとわらわらとクラブの群れができていた。いつもなら、これほど多いわけがないのは異国から来たミュリシアですらわかる。
それほどの量だ、まさにクラブの群れ、群れ、群れ!!
しかも、海岸線にはブルークラブの群れ、群れ、群れと海岸びっしりクラブの仲間で埋まっていたのだ。
「なに、これ・・・。すごい繁殖率だけど、みていて気色悪い」
普通の女の子なら、これをみただけでげっそりするかもしれない。
かに、かに、かに、かにばっか。これが毛ガニやタラバガニ、ズワイガニだったら話は全然変わってくるかもしれないが、モンスターの群れだけに気色悪いだけしか浮かばない。
そう思った冒険者はもう一人いたようで・・・。
「このかにの量、おかしいよ。もう、つぶしてもつぶしても沸いてきて・・・」
ぶつぶつ言いつつ、クラブを叩いている。
見た目からして、皮鎧を着込んだクレリックのようだ。片腕にはメイス、もう片方が盾の時点で見分けが付く。
クラブを叩きつつ、ミュリシアの方に近づいてくる。
叩くのに集中してるようなのでじゃましないようにミュリシアがすれ違おうとすると、クレリックの冒険者がミュリシアに気づいた。
「あれ、こんなところに人がいる」
「あっ、こんにちは」
「こんにちは」
流石に気づかれてしまうと、挨拶くらいはとミュリシアは思い話しかけた。すると、話しかけたクレリックの少女は、ミュリシアをみて驚いていた。
「あれ、初めてここを通る冒険者を見たよ。ずっと誰も通らないから」
「えっ?波紋の森で数人の冒険者と行き違いましたけど・・・」
「そ、そうなの?」
クレリックの少女はそう言うと、ミュリシアは頷いた。確かに波紋の森を通る冒険者は少ない。だいたいここを卒業して上級に行った人が多いからだ。
「クラブを叩いて、がんばっていたら一緒にいた仲間とはぐれるし・・・。場所はわからないし・・・」
「えっ、冒険者の登録の時に地図をもらいませんでしたか?」
「仲間が持ってたから、手元にないし。迷うし、もう死ぬかと思ったよ」
ミュリシアは大げさなと思いつつ、結構この子方向音痴なんじゃと思った。
その様子に気づいたように、クレリックの少女が口をとがらせた。
「あっ、今方向音痴って思ったでしょ」
「あのー、地図を仲間に預けたのが間違えなんじゃないですか?いつ仲間と別れるかわからないのに、預けたら迷うのは当然だと思いますよ」
「うっ、至極当然のことを言われた〜。うー、ショックだよ」
段々子供化するクレリックの少女をみて、ミュリシアは苦笑を浮かべた。
「あたしは、ミュリシア。15歳の剣士志望の冒険者。貴女は?」
「私は、リリアン。16歳クレリック志望の冒険者だよ」
お互いに自己紹介を終えると、リリアンはミュリシアをみてため息をついた。
「うー、年下なのにしっかりしすぎ。どっちがお姉さんだかわからないよ」
「境遇にもよるとおもうんですが・・・。リリアンさんはどこに行こうとしていたんですか?」
「私?エルドリンに行くつもりで・・・。仲間と居たのにクラブ叩いてたら居なくなっちゃったし・・・」
「なら、あたしと一緒に来ますか?エルドリンに行くのは一緒ですから」
ミュリシアの申し出に、リリアンは首を縦にぶんぶん振った。
「うん、うん!いく、行くよ!!」
「えっと、そんなに意気込まなくても大丈夫ですよ」
苦笑を浮かべるミュリシアの手をリリアンはぶんぶん振っていた。
どうやら、人を見つけたことと一緒に行ってくれることが決まってうれしさがこみ上げてきたらしい。ある程度振っていると、いきなりグーとおなかの音が鳴った。
「あ、あはは・・・。おなか減った〜」
「唐突ですね。少し休憩を森の方でしましょうか」
「うー、ありがとう」
「えっと、抱きつかないでください。動きづらいです」
ミュリシアは、リリアンの抱きつきから逃げるように森に急いでいた。海岸にいるといつキングクラブの攻撃に遭うかわからないからだ。
海岸から15分ほど歩いて、森のそばまでやってきた。
「うー、もう動けない。おなか減った〜」
「それじゃあ、軽くご飯にしますね」
「やったー、ご飯ご飯〜」
リリアンはどうやらおなかが減っていたようだ。何時間クラブを叩いていたんだろうとふとミュリシアの頭に疑問が浮かんだ。
携帯食料の干した肉を一口大に切り分けて、そこに同じくルーメン村で買い込んだジャガイモを皮を切り、こちらも一口大に切り分ける。そして食べられる天然のキノコを数個食べやすい大きさに切り、食べられる野草を摘み取っておいたのを刻む。
譲ってもらったショートソードは、下手な包丁よりよっぽど切れ味が良いが手入れを怠れない欠点がある。それは、鋼製ということで、放っておくとさびてしまう。
すぐにショートソードをぬぐって、切った具材を小さいお鍋の上に落とす。鍋にはあらかじめ、小さいラードを落としておいて、火をかけておいた。
干し肉と、ジャガイモ、キノコに野草のソテーを作りつつもミュリシアは疑問を口にすることにした。
「あの、リリアンさん。クラブ、いったい何時間叩いていたんです?」
「うーん、朝から居たと思うよ」
「えっ、朝から?もう日もかなり傾いてますよ?あたしがルーメンを出たのがお昼過ぎです。それを考えても、7時間くらい叩いていたってことですか?」
「多分そうだと思う。実は、仲間たちの中で一番弱くてここで修行していればいいって言って、先に行っちゃったんだよね。クラブ叩きつつ待ってたんだけど戻ってこないし・・・」
リリアンの言葉を聞いていて、ミュリシアはリリアンが仲間において行かれたんだということを感じていた。
(体の良い置いてけぼりか・・・。仲間なのに、弱い者を排除しちゃうんだね・・・。聞いていて寂しさだけしか感じないよ)
ミュリシアの表情の変化をみて、リリアンは首をかしげた。
「どうしたの?なんか悲しそうだけど・・・」
「リリアンさん、仲間の人戻らないかもしれません」
ミュリシアの言葉に、リリアンは表情の意味を感じ取った。
「弱いから・・・。弱いからおいて行かれたの?」
「多分戻ってこないと思います。でも、リリアンさん一つだけ安心してください。あたしはリリアンさんをエルドリンまで送ります。こういうのも縁だと思いますから」
リリアンは、悲しいのと悔しいので涙が自然にこぼれていた。それを、ミュリシアはぬぐってあげた。悲しいのはよくわかる、仲間だと思っていた人において行かれることは辛いからだ。
しばらくすると、リリアンは泣きやんでいた。
「ごめんね、お姉さんなのに泣き虫で」
「リリアンさん、泣いても良いと思う。悲しいときに泣けないのは辛いから、あたしも経験があるんです。だから・・・」
「ありがとう、涙吹いてくれて・・・。あー、でもおなかが減った〜」
「涙を流して泣いたらおなかも減りますね。そろそろできあがると思うんですけど・・・」
お鍋で炒めつつも、できあがりを確認する。ほどよく火が通っていて、大分香ばしいにおいが漂ってきていた。
元々火が通りやすいように切っておいたので、それも功を奏したようだ。
(初めてにしては、何とかなったかな・・・。一応教えてはもらったけど、実践するのは初めてだしね)
ミュリシアは少し胸をなで下ろしつつも、出来映えは良い方だと感じていた。
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